たぬきのMusic Chronicle~第7回~佐野元春Part4

ナポレオンフィッシュと泳ぐ日

佐野元春にとって唯一の日本語タイトルアルバムであるこのアルバムは、作品的に大きな変化を見せた。

ハートランドの演奏は減り、スポークン・ワードをアルバムに入れた。曲調はバラエティに富んでいる。トータルテーマはないのだが、聞き込んでいくと味わい深い。このアルバムは、内包された悩みを解放させながら、自己批判と内省に戻る内容なのだ。

タイトルチューンのイントロの妙なハイテンションで解放させて、自分自身を奮い立たせるようなラインナップの二曲目が続くのに、精神はネガティブになっていく。思えばこのPVも、すこぶる明るいもので、たしか「HIT’S」という番組だったと思うが、初見で別人かと思うくらいの衝撃があった。

「おれは最低」や「ブルーの見解」などの自己批判とも取れる楽曲は、元春自身の当時の悩みであると言えまいか。等身大の自分を伝えることの難しさ、そこには元春の死生観すら垣間見える。

おそらくこの頃の元春は、新たな表現方法を模索していたのだと思う。バラエティに富む曲調こそが、ロックンローラーでありポップシンガーである元春の真骨頂であり、そこにのせる言葉は表現方法の一端に過ぎないのではないか。
抽象的な表現が選択する言葉は他の誰とも違うが、そこに一貫性があるのかというとそうではない。ただ、それほどとっ散らかった印象がないのが不思議で、前作と併せて佐野元春を語る上で重要な位置を占めるアルバムと言える。

そして元春は表面的には迷走していく。確固たる表現を模索しているが、ファンとして「え?」という方向性に走って行く。それが次作以降のアルバムだ。 “たぬきのMusic Chronicle~第7回~佐野元春Part4” の続きを読む

たぬきのマンガ夜話~第1回~「おせん」

  今回の内容は「おせん」 作:きくち正太

 osenmattou

「おせん」全16巻
「おせん 真っ当を受け継ぎ繋ぐ。」全11巻
いずれも講談社イブニングKC刊(kindleバージョン有り)

『笠置の宿には過ぎたる花がふたつある
 ひとつぁ 千成神社の弁天桜
 もひとつぁ 本所百軒下田谷屋敷
 江戸の北斎 京伝も
 この花だきゃぁ 筆にもできめぇ
 老舗花茶屋”一升庵” 暖簾に咲いた花の名は
 半田仙こと 通り名 おせん
 まずは衆目衆目』

上記は一巻の巻頭の扉絵に書いてある一節。
料理マンガではあるが、どちらかというと和の文化に重心を傾けた人情ものと言える。作者の趣味であろう料理・骨董などの話題が多く、その手が好きな人には堪えられないテイストである。

主人公は、一升庵という店の呑んべえで食い意地の張った天然若女将「半田仙」、通称おせんなのだが、物語は大学新卒で、甲府の旅館の跡取りでもある江崎ヨシオの視点から語られている。ストーリーは江崎が就職するところから始まり、跡継ぎに帰る直前までが綴られている。

江崎にはグリコというニックネームが付けられるが、この辺のベタさが割とツボ。そういえば、むかし「軽井沢シンドローム」でも純生クンがアサヒとかキリンとか呼ばれてたな(笑)

一升庵という店は、笠置の宿にあると言うことになっているが、当然そんなところは東京にはなく、設定としては鈴木春信の絵画にある、笠森お仙がいた谷中の笠森稲荷神社周辺がモデルと思われる。
戦争で焼けてしまったが、そこには星岡茶寮があり、一升庵の店構えはそれをモチーフにしているのだろう。

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