外メシシリーズ2015~番外編~佛跳牆ラーメン1

乾物と干物。漢字で書けば「乾かす」と「干す」。どちらも水分を減らすことだ。だからほぼ同義語であるとしていいだろう。私の言語感覚としては、乾物は全く水分がなく、干物は幾分かの水分が残っていると意味だと捉えている。
私の定義からすると、アジやイカなどの魚介を開いて乾かしたものは干物で、大豆などの豆類や昆布、椎茸は乾物と言うことになる。スルメはどっちかと聞かれれば乾物だし、セミドライトマトはと聞かれれば干物である。

乾物とはそもそも、水分のある素材から水分を取り除き、完全に乾燥させて腐敗を防ぐのが目的だ。利点は保存できる期間の長さである。

水分、つまり水という物質はかなりいろんな物質を溶かすことが出来るので、元々の素材に含まれた成分などは素材に含まれた水分の中にあると言ってもいい。それが乾燥することで水分が抜け、あとには旨味、滋味などの成分だけが残る。乾物のもう一つの利点である。

ここで、天日で干すか乾燥機で乾かすかのどちらがいいかなどの方法論を追求して語るつもりはないが、天日で干したもののほうが、ゆっくりと水分が抜けていくだけ、成分は凝縮されるような気はする。

人間は水分がなければ旨味は感じない。乾燥した食品をそのまま口にして旨味を感じるのは、唾液の力であり、多くの場合、唾液の力だけでは旨味を抽出する前に飽きてしまうか、唾液が足らなくなって口中が不快になるかどちらかである。

乾物を戻すという技法は、水分を補うことで改めて成分を整列させる技法のことだ。水で戻すことで、乾物は旨味を蓄えた素材に帰還する。

フライパンに水を入れて加熱していくと、何カ所かに水分の塊が出来て最後に蒸発する。何カ所かに出来た水分の塊が成分を含んだものだとすると、成分は蒸発した水分から取り残されフライパンのあちこちに取り残される。フライパンを素材に置き換えてみると、乾燥した素材のあちこちに、分断された成分が残っていることになる。

その分断された成分をまとめるにはどうしたらいいか。再度成分を整列させる号令があればいいわけで、その号令に当たるのが水分となる。
そして、その水分に旨味成分は流出する。それがダシである。

さて、いいこと尽くめの乾物だが、独特の匂いが副産物として発生する。成分にはもちろん匂いのある成分もあるから、濃縮されればそれなりに匂いがする。濃縮された匂いを好む人がいれば、好まざる人もいる。

一般的な食生活を送る日本人が好む乾物の匂いとは、鰹節であり昆布であり煮干しであり、その他にも色々あるが総じて和の食材に関連するものだ。つまり、日本人が好む乾物の匂いとは、通常の食生活にすり込まれた匂いであって、年を重ねるごとにその経験が積み重ねられるから、好みの度合いはより深くなっていく。

中国には「乾貨」と呼ばれる乾物がある。ふかひれ、干しアワビ、干しなまこなどの和食になじみがない素材や干し椎茸(どんこ)などの茸類を総称してそう呼ぶ。

水で戻すと食感が大きく変わるものが多く、干しアワビなどは生の時のコリコリとした食感から、干して戻したものは、むっちりとした食感に変わる。

俗に言う乾物臭さとは、これらの食材を戻したときに発生する匂いであり、これを風味と取るか臭みと取るかは、食べる側の受け取り方によって違う。

話は全然変わるが、世界三大ハムというのをご存じだろうか。イタリアのプロシュート、スペインのハモン・セラーノ、そして中国の金華火腿。火腿とは、豚の骨付きモモ肉を1本のまま塩漬け、乾燥、熟成させたものをいい、ベーコンのように塩漬け、燻製にしたものは臘肉、中国ソーセージは香腸という。

ここにも乾燥が出てくるわけだが、これはどちらかと言えば干物。2割強の水分が残っているのだが、動物性タンパク質が分解することに因るアミノ酸の析出は三大ハムと共通である。

そして、これも独特の匂いがする。動物性タンパク質の分解した匂いというのは深い郷愁を感じる反面、ともすれば腐敗臭と感じることもある。

ここまでに挙げた乾貨や火腿は、その製造工程に多大な手間と時間がかかっており、中国のみならず高級素材とされている。

前段が長くなったが、これらの素材を数日かけてもどし、長時間蒸すように煮て、旨味成分を抽出したスープが佛跳牆(ぶっちょうしょう、フォーティャオチァン)である。

佛跳牆の由来は、あまりの美味そうな香りに佛(修行僧)ですら寺の牆(垣根)を跳び超えてくるという詞で、これほどの高級素材をふんだんに使っているわけだから、当然供される価格も高く、1杯5万円なんて言うのはザラだそうだ。
しかし、我々日本人にはなじみがない乾物臭、そこまでの旨味と感じられるかどうかは甚だ疑問である。そして、これをラーメンのスープに使ったらどうなるのか。

そんな、半分遊び心のメニューながら重圧で全然遊べないかもしれない命題に敢然と立ち向かった男がいる。

長いので明日に続く。

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