外メシシリーズ2015~番外編~佛跳牆ラーメン2

昨日の続き。
敢然とそのレシピに立ち向かったのは、湯島にあるラーメン店、ラーメン大至・柳崎 一紀店主である。

彼が供するラーメンの先にはあるものは「普通のラーメン」。
「普通の最高峰を目指す」という、一見矛盾したテーマだ。
彼のラーメンは足し算料理、引き算料理という単純な括りではない。巷間よく言われる清湯スープはただ澄んだスープのことを言うようだが、正しい技法で丁寧に取ったスープの旨さは、そこらの偽清湯が束になってもかなわない。そこに、噛みしめると肉の旨みが味わえる低温調理のチャーシューなど、手をかけた具の旨さが色を添えていく。

麺は自家製ではないが、これまた旨い麺を探してきたもので、傾奇者というブレンドされた小麦を使用した浅草開化楼の特製だ。しなやかさの奥にある確かな小麦の味わいが、鼻腔や舌、喉を満足させる。

麺を食わせる為にやるべきことを、高いレベルで毎日繰り返す。当たり前のようだが、なかなかできることではない。
それをさり気なくこなして、旨いモノを作る、それでいて肩肘は張っていない、相当の手練れである。

さて、材料だ。この材料の調達には友人K氏が関わっている。K氏は食はもとより諸芸・文化に造詣が深い。そのK氏が某所から入手してきた火腿と、店主が用意した乾貨がこちらだ。
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なお画面にある「美味しんぼ」で「食べない理由」という回で佛跳牆を取り上げている。「美味しんぼ」を読んで佛跳牆を知った諸兄も多いのではなかろうか。

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メニュー、注意書きも印刷されている。 なるほど考えたものだ。5食ずつの提供なら、出来上がりのいい状態で供することができる。

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突き出しの海鼠。わざわざ生の海鼠と干しナマコを食べ比べをさせようという企みだ。この海鼠がなかなかいい味で、突き出しとして充分成立している。

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今日は酒もある。なので酒の肴なのだが、刺身が今日の料理のツマになってしまうほどだ。

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店主のアイディアが端々に出ている。乾貨を戻したものに火腿を加えて、温度を上げて旨みを抽出するが、鍋で煮てしまうとバラツキが出てしまう。一見、邪道のように見えるが、最適のバランスを保つ工夫がこのパック詰めである。湯煎の温度などオペレーションを考えた最適の方法だ。

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前出の鶏清湯スープと佛跳牆スープを丼で合わせる。琥珀色が何とも美しい。
まずはスープだけを味わう。少量の紹興酒でわずかな臭みを取る。矯臭効果はスパイスに限ったことではない。
そして瞬間の口福。幾層もの薄いプレートを重ねた重厚さと、後を引くがけしてしつこくならない軽妙さが同居する。乾物らしい匂いも、ここでは味覚を引き立てる役者となる。球体のように調和が取れていて言葉が出ない。

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ここにラーメンのタレを加え、鶏油を加える。ここでまたスープだけを味わう。醤油の旨みが加わり、塩分で輪郭が強調されて、さらに味わい深い。塩分が味覚の重要なパーツであることを再認識する。スープは、ラーメンのスープらしくはなっているが、軸足はまだ佛跳牆側にある。これがどのように変化するのか。

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麺が入る。前述の特製麺に手もみを加えている。スープを味わう。スープは一気にラーメンのスープに変身する。麺をすするごとにあふれ出す旨みが、まるで洪水のように口中を刺激する。同じスープなのに表情が激変するのだ。いやはや恐れ入った。

旨みというのは単純に舌で感じる旨みと、内臓で感じる旨みがあると私は思っている。
舌で感じる旨みのうち、直接的な強い旨みは旨味調味料などに代表されるように、後味に焼け跡のような残像を植え付ける。しかし、このように重ね合わせた旨味の束、重層的な旨さとも違う混沌とした旨さは、心地よい快感となって舌の上に黄金柱を形作る。

そして特筆すべきは、内臓で感じる旨みの方である。一杯のラーメン、しかも具は乾貨を戻したものだから、それほど量は多くない。しかし麺を最後まで啜り終えたとき、至福とも言うべき満足感が内臓を包み、充足した食事にただただ「ごちそうさま」と繰り返す。内臓がこの余韻を壊さないでくれと述べているのだ。

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しばらく余韻を楽しんだあとに供された炊き込みご飯と新香。懐石などの〆に近い、漣のようにたなびく余韻を沈めるに相応しい献立だ。

昨日記したように、乾物臭さは日本人の味覚に合わない。それを試行錯誤を重ね、自分の手元に引き寄せて絶妙の調和を引き出した店主の力量に、最敬礼する。

中華料理最高峰をやってしまったわけだから、いやが上にも期待は高まる。次はどんな切り口を見せてくれるのか、その自然体の実力に刮目して待ちたい。

 

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