たぬきのマンガ夜話~第3回~「ラストイニング―私立彩珠学院高校野球部の逆襲」

今回の内容は「ラストイニング―私立彩珠学院高校野球部の逆襲」 原作:神尾 龍 作画:中原 裕

 LastInning

ラストイニング―私立彩珠学院高校野球部の逆襲」1巻から44巻
いずれも小学館ビッグコミックス刊。

「8勝92敗でも甲子園に行ける」
そんな馬鹿な、という感じで始まるこの漫画。

かつて35年前、甲子園に出て初出場初優勝してという(一応)名門彩珠学院高等学校(通称サイガク)。その学校が経営上ピンチになり、野球部を廃部させて赤字を縮小するという大人の判断に対し、その優勝メンバーでもある学校長が自分が監督をしていた時代に選手だった鳩ヶ谷圭輔を再建のために連れてくる。 鳩ヶ谷圭輔はインチキセールスマンで生計を立てていたが、上司と彼女に騙され、収監される。学校長が保釈金を払って釈放させるのだが、最初は全くヤル気を見せない。

「甲子園に出場できなければ廃部」という設定に、一見しただけでこのままでは甲子園は無理だと判断して、「オレのやり方に口出しはご遠慮願えますか」と、釘を刺した上で監督に就任する。

エースの日高を刺激するためにいろいろと策を練ったり、下級生キャッチャーの八潮を野球とは全く関係なさそうな独特の練習法でインサイドワークを高めたりと今までの野球マンガとは異なる視点で、ストーリーを進めていく。

規則の盲点を突いた補強策やら、ダーティな大人の思惑すらも利用してチームを鍛えていく様は痛快な部分が多い反面、高校野球の闇の部分もあぶり出してくる。

他県からの野球留学や、高校野球かくあるべしのようなステレオタイプの意見に、斜め上から切り込んではいるがそれを全否定でもなく、独特の距離を置いた感覚が彩りとなっている。

スピリッツに連載されていた「やったろうじゃん」と比較した場合、同じように監督がメインのストーリーなのだが、本作は野球好きがはまりそうな戦術などの部分に主眼が置かれているので、思わずニヤリとしてしまう。そういえば、「やったろうじゃん」も埼玉なんだな、何か担当者とかのつながりがあるのかな?

「いいか、奇襲ってのは2回続けるから奇襲になるんだ」「最初の奇襲は寝た子を起こすだけになることもある・・・そこにもう一つ奇襲を重ねることによって、相手を本当に混乱させることが出来るんだ。」とか「一死一・三塁から点が入るパターンは…50以上あるぜ・・・・・・。」とか、いやらしい野球、野村監督に言わせれば弱者の兵法なのだろうが、それともまた違うのは全体を貫くトーンが明るいせいなのだろう。
また、「今後一切下手なやつと口をきくな!!」「「下手は伝染る!!」「一緒に練習すると上手い奴ほど気を遣って相手のレベルに合わせちまうからな!!」・・・なるほど確かにそうだ。

直前にエースが肘を痛めたりのアクシデントはあるが、なんとか夏の大会を迎え、県予選を勝ち抜いていく。一戦毎に野球の奥深さを角度を変えて魅せていく。

実力差のある相手に正面撃破あり、ほぼ同レベルの相手に裏をかく戦術あり、かと思えば楽勝の相手のはずが苦戦。この辺から、運もかなり味方してくるように見えるが、5回戦はなかなかの見応え。スライダーで第一シードになった、埼玉栄冠高校の大滝を攻略する方法。「小さいやつは見逃して、大と落ちるのついてかない」「見せ球真っ直ぐあえて打つ」と題目のように唱えて徹底させる。ピッチャーは切れが悪いのかと錯覚して・・・・

準々決勝は最終的にまた運。打撃のチームに軟投派はセオリー通り。もっとも、軟投派もそれなりに実力がないと厳しい。打ち込まれたあと、リリーフの(ハッキリいって二線級の)ピッチャーがピックオフプレイでランナーをアウトにしたり、試合は二転三転するが、最後はエースが打たれる。最終回のその最後の送球が逸れたら負けてる。強いチームを書いているわけじゃないことがここにも現れる。

一転、準決勝は再び戦術ありきのマニア好みの展開。好投手新谷が好投手たる所以がマニア心をくすぐり、さらにそれをを攻略する方法が戦術としてハイレベル。「欲しがりませんフォアボール」好きだなぁ、こういう展開。

物語のクライマックスは聖母学苑との県予選決勝。鍛えられて、また戦術を理解し、県最強の優勝候補ナンバーワンのチームと対戦する。全国レベルの相手エース明石を攻略すべく試合を進める彩学ナイン。あえてフォークボールを狙わせるスクイズシーンなど鳥肌もの。「俺達は――球種さえ分かればここってときに決められるだけの練習はしてきたはずだぜ――たとえそれが明石のフォークでも!」
ここに、アピールプレイの伴うダブルプレーやら、底力を見せる相手チームやら野球好きには堪らん展開。

ここまで、彩学のレギュラーそれぞれに見せ場がきちんとあり、その味わいがドラマを包む。大抵、一人くらいこぼれるキャラがいるのだが、本作はそういうことがなく進んでいく。また、ちょこちょこと入るダークなサイドストーリー、カメオ出演する(顔は出ないが)他のキャラクターなど隠し味には事欠かない。

甲子園出場を決めて、そして甲子園での戦いは予選に比べると、ストーリー的にはやや寂しい。だが、自信をつけ、監督の作戦通りに動き、さらには控えも含めた選手たちが鳩ヶ谷野球を自分たちだけで体現できるまでを描ききったとも言える。

壊れそうなエースは針治療で力投するわ、主砲はリリーフに出て来るわって。でも次期エースじゃなかったり、それはまた別の話だがw
甲子園準決勝の相手チームのエースのモデルが、藤浪なのはご愛敬。

最終回、ノックバットをもった鳩ヶ谷がキャッチャーフライを打つのだが、連載時のタバコに火をつける方が好きかな、鳩ヶ谷らしくて。

熱血でもなく爽やかでもなく、ましてや努力でもない(努力はしてるんだけどね)。だが不思議な爽快感が残る野球マンガだ。ここ何年かの野球マンガの中ではNo.1と断言する。

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